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2024年04月26日
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【まどろみの邂逅】
2011年03月05日
代表と准将。
陽が天にのぼるころ。
いただいた絵から考えた話です。
カガ→アスで。
それをひっくり返すようなアス→カガです。
南国の昼下がりには、空に浮かぶ白い雲と、ゆったりとした時間が流れている。
「さっきは起こしてすまなかったな」
「いえ、あやうく合同部会に遅れるところでした。助かりました」
閉めきっていた室内はだいぶ蒸し暑く変わっていて、大胆に窓を開放させてから上着を脱ぐ。氷がたっぷりと浮かんだグラスが運ばれ、見た目にも涼やかなそれを口に運ぶとようやく凝り固まっていた緊張と疲れが解けた。
秘書官も護衛も下がって、室内には二人きり。
たちまち郷愁のような安心感に満たされて言葉も態度もくだけはじめる。
「おまえ、どうしてあんなところで寝ていたんだ?」
昔、立ち入る者がほとんどない森の中はかっこうの休息場所だと、教えたのはたしかにカガリ自身だけれど、日頃耳に届く言うなれば切れ者の彼が無防備に寝転んでいる様はとにかく意外だった。
自分ならまだしも、アスランが隙だらけで横たわっている場面に出会うなんて。
「二日ほど部屋に詰めていたら追い出されて――しかたがないからどこかで時間を潰そうと」
気がつけば意識を離し、散歩中のカガリに起こしてもらったのだと、目の前の青年は明るく答える。
ほとんど予想とたがわない答えだった。
見た目から受ける印象そのままに、知的で生真面目な彼は軍務に没頭してしまうことが多々あるらしい、そんな彼の勤めぶりはカガリの耳へも入ってきていた。
「厚生管理の担当者がわたしにまで言ってきたんだぞ。おまえが規定どおり休みをとらないと他の者が困るんだ。だから、しっかりと……――な、なんだよ、わたしは決められた休暇はきちんと消化しているぞ」
昔さんざんぶつけられた小言を今度は自分が口にしている。
気づいてやや膨れぎみのカガリに穏やかな苦笑を向けると、アスランの視線は再び机に戻っていた。
軍職についた彼にさせる作業ではないと思いながら、その指先が巧みに動いて的確に文書を分けていく姿を見入る。
私的な護衛として共にいたときこうしてカガリの執務を補佐していた彼。習慣的に身についてしまった作業を今はとめることはしない。
どうやら、草の上で伏臥してしまいそうになっていたのは疲労がたまっていて……という理由ではないらしい。
ほどよく通る風と、木漏れ日のあたたかさに抗えなくて。
というわけのようだ。
「本当のこと言うとな……、あのまま寝かせてあげようと思ったんだ。すごく気持ちよさそうだったし、おまえがあんなに無防備にしているのちょっとめずらしいからな」
寝ている姿を見つけた刹那、疲れた体を休ませてあげたい、そう思った。
実際カガリは連れ出っていた補佐官と視線を交わし黙ったまま木陰をそっと立ち去ろうとした。国防対策会議が開かれることは承知していたけれど、一度目きりの不参ならば処罰が課せられることはないと知っていたし。
「けど、結局わたしはおまえの所までもどった」
木陰でまどろむその姿は、いつか仄暗い中で見た、焚き火に照らされたときと同じあどけない寝顔を浮かべていて。
途端に蘇る懐かしさがあった。
居場所も、纏う軍服の色も。
おそらく大義や信念も変えたであろう、彼の。
今なお変わらない姿を見かけるのはひさしぶりだった。
そう気づいたら、体が勝手に引き返していた。
「眠りの邪魔をしたわけじゃないんだよな、それ聞いて安心した。ほとんどエゴで声を掛けたようなものだからさ」
あのままカガリと補佐官が立ち去っていたならば。
あるいは誰かに見つけられたかもしれない、准将の心地よさげな寝姿。
――いやだ。
それはいやだと。ほかの誰かが見かけるのはだめだと思った。
気難しそうに見える眉も、きゅっと結ばれた唇も緩みきって、安堵に満ちた寝顔。
起こすのは忍びなかったけれど、自分自身に急かされて肩を揺らした。
「ひとりじめしたくなった。おまえがめったに見せない姿を――こんなのキラに知られたら笑われるな、まだまだ子どもだって」
そよぐ風のせいでもなく室内の空気が揺れる。
うっかり本音を吐露してしまったカガリは震える指先を片手で覆い焦った。
そうして焦燥する彼女を責めることも追い詰めることもなく穏やかに低く伝わる声音。
短い言葉に救われる思いがする。
「俺なんていつも」
「……うん……」
お互い探るように交わした視線の先に同じ動揺が見てとれた。
確かめあったのは一瞬で、またいつもの仕事にもどる。
ゆったりと流れる午後の時間は、とても、心地よい。
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