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2024年05月19日
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 出会い記念SS

2012年03月09日

3月8日

アスカガの出会い記念SSです。




つづきからどうぞ






アスランが屋敷を訪れたのはずいぶんと遅い時間だった。
突然の訪問に驚いたけれど、ちょうど心細く思っていたせいもあって……。マーナが気を利かせて部屋を出て行ったあとは、自然と手が伸びていた。
戸惑う様子がくっつけた温かい体から伝わってくる。顔をこすりつけると、はっとしたように肩を抱かれ、その手はもういつもの優しさだった。
「そんな顔するな。朝、早いんだろ? あまり時間ないから、だ」
表にださなかっただけでカガリだって考えていた。なんとか、会えないものかと。アスランが地球の裏側へと行ってしまうまえに。

独立で揺れる紛争地域へオーブも兵を派遣することが決まり、指揮官のひとりとしてアスランも出向するのだ。
「今までもあったじゃないか、二ヶ月なんて……」
今回に限ってどうして。不思議そうにアスランがカガリの表情をのぞきこむ。
「近くにいて顔が見られないのと、離れて会えないのとでは……だいぶちがうんだよ」
どこがどうちがうのか。聞かれたところでうまく説明できそうにないけれど、ともかくカガリを積極的に動かせてしまえるくらいに。ちがうのだ。寂しさの度合いが。
ようやく冷静に、恥ずかしさを知覚できるようになって、カガリが身を退こうとすると、今度はアスランのほうから寄りかかってきた。
抱えられ、胸に走る、甘い痛み。鼻先をアスランの髪の毛がくすぐって、そのまま柔らかく変わりそうに思えたけれど、カガリは回していた腕をふいに解いた。重ねた体の間に違和感をおぼえた。

「なんだ……?」
「――ああ」
忘れていた、と呟いて、アスランが胸元から取り出したのは布の包み。
迷いもなくアスランはカガリに包みを手渡して、カガリは重量感のある、その中身をあらためる。
「……銃……」
見るからに旧式だとわかる、小型のハンドガン。フレームを歪ませるほどの大きな陥没付きの。
銃としての機能が危ぶまれるくらい激しい痕だ。
使い込まれた印象はないのに、目立つ損傷のせいで、護身用にするには、ちょっと、心許ない。
留守の間、これで身を護れ。そういうことだろうか?

カガリのまなざしにアスランは首を振る。
「今になって送られてきたんだ。基地に残っていたのをディアッカが気を回してくれたらしい……。見覚え、ないか?」
思わず、ない、と口を開きかけたけれど。そう尋ねるということは……関係があるのだ。あるにちがいない。
ほんのりと口元に浮かぶ笑み。カガリを試しているような微笑みに気づいて、絶対に解いてやろうと意地になる。
けれど、あまり時間をかけず降参することにした。銃をぐるりと眺めても手がかりはなかったから、あっさりと諦める。
時間がもったいなく思えたのだ。答え探しに費やす時間なんてない。今夜は。

「カガリが投げ捨てて、俺が蹴飛ばした銃だよ」
くすくすと笑うけれど、銃に注がれるアスランの視線はひどく優しげで。
あ……、と。カガリの頭の中をかすめるもの。
震える手で握った、冷たい感触。むきだしの岩肌にこだまする爆発音。
次いで、耳をつんざく激しい怒声。
「え、じゃあ、これ……あのときの……?」
もう何年も前の出来事なのに、吹く風の音も薬莢の匂いも、あざやかによみがえる。
「今のカガリになら安心して預けていけるよ」
暴発させるような馬鹿な真似はもうさすがにしないだろう?
からかわれたような、褒められたような。複雑な表情で見つめ返すカガリの、心の中はもっと複雑だった。

アスランはいつも大切なものを置いて、いなくなってしまう。
今度もまた、同じことをするつもりなのだ。
カガリに、アスランを数瞬だけ思い出させるものを残して、悪びれた態度をのぞかせながら彼は去って行ってしまう。
見えない彼の姿を案じ、深く思い詰めることになる苦しさを、怖さを、知っているのだろうか。

「ごめん。こんなものじゃ、やっぱり……」
本当にアスランは気づいていないのかもしれない。でなければこんな勘違いなどしない。
「ううん、ちがうんだ。正直、いつもの花束よりずっと嬉しいぞ。大事にする」
気を遣わなくてもいい、と何度も伝えているのにもかかわらず、カガリに会いに来るときアスランは絶対になにかを抱えている。今夜はどこにも立ち寄ることができなかったようで、代わりに、よりによって、この銃だ。
まっすぐな気持ちを贈られる代償と思えば、きりきりと胸を痛むつらさにも耐えられる。
ささいなきっかけで感情が揺れ動いてしまうのはそれだけ深く相手を想っているからだろう。そう割りきって、願って、こらえて、待つほかないのかもしれない……。

「気をつけて。……はやく、帰ってこいよな」
指揮官の地位にあるとはいえ、必要とあらばアスランはモビルスーツにだって乗り込んでいくから。
彼の信念を誇らしく感じながら、無茶をするなと祈らずにいられない。
いろいろなものを隠したくて顔を上げることのできないカガリを。
ふわっと。アスランのほうからゆっくりと包み込む。
涙を見せることも厭わずに遠慮なくしがみついて、とても自然なかたちで唇を重ね合わせた。





車に乗り込むと思ったアスランが振り返り、カガリの腕をつかんで顔をぐっと近寄せる。
マーナや使用人たちもそっと見送りにでている中。身を固くするカガリにかまわず、アスランは笑顔でカガリの髪に唇を当てた。
「今回の任務が済んだあと、何日か休みがあるんだ」
軽い口づけだった。
後ろから注目されていることを除けば、ほのかに熱がともるだけで済む、挨拶程度の触れ合い。
なのに、くらくらした。

今日のつづきは、その時に……。

こめかみに贈られたキスに、そう言われたような気がした。















END




――あとがき――

24話の護身用オープンボルト式銃はアスランの私物らしいということで。
銃ひとつにも惜しみない愛情を注ぐアスラン(たぶん)。傷ついた銃も丁寧に持ち帰ったのではないかな、と。


大切な人にはプレゼントを残していくのは、おれのこと忘れないでー…という寂しさの潜在意識が働いているのでしょうけれど、キラやラクスが、ペットロボを通してアスランを回想するたびに、これって実は罪なんじゃないの?と感じます。
忘れたくても……忘れられないじゃないか。
強く想われているカガリは、きっと、大変です。










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